「もう五年になるんですね。あっという間だったような、長かったような」。そう語るのは、都内のIT企業に勤める高橋さん(仮名・42歳)だ。彼がプロペシアの服用を始めたのは37歳の時。当時、進行する薄毛に悩み、藁にもすがる思いで専門クリニックの門を叩いた。以来、一日一錠の服用を一日も欠かさず続けてきたという。長期にわたる治療を継続できた秘訣は何なのだろうか。彼は「特別なことは何もしていないですよ」と笑いながらも、三つのポイントを挙げてくれた。一つ目は「完璧を目指さないこと」だ。飲み忘れは誰にでもある。忘れたことに気づいても、「一日くらい大丈夫」と気楽に構え、翌日からまた普段通りに再開する。その切り替えが大切だと彼は言う。罪悪感を感じて治療自体が嫌になってしまうのが一番良くない、という考えだ。二つ目は「結果を焦らないこと」。服用開始から半年ほどは目に見える変化が少なく、不安になった時期もあったという。しかし、医師の「髪にはヘアサイクルがあるから、気長に待ちましょう」という言葉を信じ、鏡で一喜一憂するのをやめた。日々の服用を淡々とこなす「作業」と捉えることで、精神的な負担が軽くなったそうだ。そして三つ目が「医師との定期的な対話」だ。彼は三ヶ月に一度、必ずクリニックで診察を受けている。髪の状態をマイクロスコープで確認してもらうだけでなく、体調の変化や不安に思っていることを医師に話す。専門家から「順調ですよ」という言葉をもらうことが、何よりのモチベーション維持に繋がっているという。プロペシアの服用は、単に薬を飲む行為ではない。自分自身の体と向き合い、専門家と連携しながら、気長にゴールを目指すマラソンのようなものなのかもしれない。高橋さんの穏やかな表情が、それを物語っていた。