「髪に良いなら、たくさん飲めばもっと生えるはず」。そう考えて、規定量以上の亜鉛サプリメントを毎日摂取しようとしているなら、今すぐその手を止めてください。栄養素には「適量」があり、それを超えると「毒」になることがあります。特に亜鉛はミネラルの中でも毒性が比較的強く、過剰摂取による副作用(過剰症)のリスクが高い成分です。良かれと思ってやったことが、髪どころか全身の健康を害する結果になっては本末転倒です。ここでは、亜鉛の過剰摂取が引き起こす具体的な症状と、守るべき摂取上限について警鐘を鳴らします。亜鉛の過剰摂取には、一度に大量に摂取した際に起こる「急性亜鉛中毒」と、長期間にわたって過剰摂取を続けた際に起こる「慢性亜鉛中毒」の二種類があります。急性中毒の主な症状は、激しい胃痛、めまい、吐き気、嘔吐、下痢などです。サプリメントの瓶に書いてある目安量を無視して一度に数日分を飲んだりすると、数時間以内にこうした症状に襲われる可能性があります。これは体が「異物が入ってきた」と判断して排出しようとする防衛反応です。より深刻で気づきにくいのが、慢性中毒です。その代表的な症状が「銅欠乏症」です。亜鉛と銅は、小腸で吸収される際に同じ経路(トランスポーター)を使用し、互いに競合する関係にあります。体内に亜鉛が溢れかえると、銅の吸収が阻害されてしまい、結果として重篤な銅不足に陥ります。銅は赤血球を作るヘモグロビンの合成に関わっているため、不足すると「銅欠乏性貧血」を引き起こします。めまいや立ちくらみ、倦怠感が続き、顔色が悪くなります。さらに、白血球の減少による免疫力の低下(風邪を引きやすくなる)、骨粗しょう症のリスク増大、神経障害による手足のしびれ、善玉コレステロールの減少など、全身の機能に悪影響を及ぼします。驚くべきことに、これらの副作用の中には「脱毛」も含まれています。髪を増やすために飲んでいた亜鉛が、飲み過ぎることで逆に抜け毛の原因になるという皮肉な事態を招くのです。では、どれくらいなら安全なのでしょうか。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、成人男性の亜鉛推奨摂取量は1日あたり11mg、耐容上限量(これ以上摂ると健康障害のリスクがある量)は40〜45mgとされています。通常の食事からの摂取量は平均して8〜9mg程度ですので、サプリメントで補う場合は10mg〜15mg程度で十分であり、多くても30mg以内に留めるべきです。海外製のサプリメントには1粒で50mgなどの高用量が含まれているものがありますが、日本人の体格には多すぎる場合が多いため注意が必要です。サプリメントを利用する際は、「多ければ多いほど良い」という考えを捨て、「不足分を補う」というスタンスを徹底してください。そして、もし長期間高用量の亜鉛を摂取する場合は、バランスをとるために銅が含まれているサプリメントを選ぶか、定期的に血液検査を受けて亜鉛と銅の数値を確認することをおすすめします。