インターネットやSNSで「亜鉛でハゲが治った」「亜鉛こそ最強の育毛剤」といった情報を見かけることがありますが、これらの情報を鵜呑みにするのは危険です。確かに亜鉛は髪にとって重要な栄養素ですが、医学的な見地から結論を言えば、「亜鉛サプリメントだけでAGA(男性型脱毛症)を完治させることは不可能」です。AGAは進行性の疾患であり、そのメカニズムは非常に強力です。サプリメントはあくまで「食品」であり、医薬品のような劇的な治療効果や発毛効果を持つものではないという現実を、まずは冷静に受け止める必要があります。AGAの主原因は、男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、それがヘアサイクルを狂わせて髪の成長を止めてしまうことにあります。前述の通り、亜鉛にはこの5αリダクターゼを抑制する作用があるとされていますが、その力は医薬品であるフィナステリドやデュタステリドに比べれば微々たるものです。例えるなら、大火事が起きている現場(AGAの進行)に対して、バケツの水(亜鉛)で消火しようとしているようなものです。多少の抑制効果はあるかもしれませんが、燃え広がる火の勢いを止めるには力不足です。消防車(医薬品)を呼ばなければ、家(髪)は燃え尽きてしまいます。では、亜鉛サプリは意味がないのでしょうか? いいえ、決してそうではありません。亜鉛サプリの真価は、治療薬の効果を底上げする「サポーター」としての役割にあります。AGA治療薬によってDHTの生成をブロックし、抜け毛を止めたとしても、肝心の髪を作る材料や職人が不足していては、新しい髪は生えてきません。ここで亜鉛の出番です。亜鉛はケラチンの合成を助け、細胞分裂を活性化させることで、薬によって正常化されたヘアサイクルの中で、太く強い髪を育てる手助けをします。つまり、薬が「マイナスをゼロにする」役割なら、亜鉛は「ゼロをプラスにする」役割を担っているのです。実際に、多くのAGAクリニックでも、投薬治療と併せて亜鉛やビタミン類のサプリメント摂取を推奨しています。これは、治療の成功率を高めるための理にかなった戦略です。もしあなたが現在、薄毛対策として亜鉛サプリだけを飲んでいるのであれば、それだけでは現状維持すら難しいかもしれません。本気で薄毛を改善したいなら、まずは専門医に相談して適切な医薬品を使用し、その上で補助的に亜鉛サプリを取り入れることをおすすめします。これが、最も効率的で確実な育毛へのアプローチです。また、「亜鉛で髪が増えた」という口コミの中には、もともと極度の亜鉛不足によって引き起こされていた脱毛(休止期脱毛症など)が、亜鉛補給によって改善したケースが含まれている可能性があります。これはAGAが治ったのではなく、栄養失調による脱毛が治っただけです。現代人の多くは潜在的な亜鉛不足ですので、サプリを摂ることで髪質が良くなったり、抜け毛が減ったりする実感を得ることは十分にあり得ます。